日本海の深海域が将来、無酸素状態になる可能性があることが、国立環境研究所や海洋研究開発機構のチームの分析で分かった。深海に酸素をもたらす「表層水」が、冬の海水温上昇で十分冷やされず、重くならずに深い部分まで達しないためと考えられる。温暖化が現在のペースで進めば、100年後には日本海の海底付近が無酸素状態の「死の海」になる恐れもあるとして、チームは詳細な調査に乗り出した。 外洋では、南極や北極圏など高緯度地域で冷やされた表層水が沈み込み、水深2500メートル以下の「底層水」と入れ替わっている。2000年もかかるゆっくりした循環だ。日本海では、ロシアのウラジオストク沖やサハリン沖で冷やされた表層水が沈み込むが、対馬海峡や宗谷海峡などによって半ば閉鎖されているために、その循環スピードは約100年と速い。 チームは、日本海は外洋より温暖化の影響が早く表れると予測し、日露の研究機関が1920年代から蓄積している観測データを調べた。その結果、50~60年代以降、底層水の酸素濃度が減り続けていることが分かった。 現在の酸素濃度は海水1キロあたり6.7ミリグラムで、50年代から約2割減少。底層水中のプランクトンが酸素を消費する一方、表層水の沈み込みが不十分で、酸素供給が追いついていないと推測した。 日本海の海水温は、過去100年間で1.3~1.7度上昇。このペースで温暖化が進めば、日本海の循環が停滞し、約100年後には無酸素状態になるとチームは予測している。今年度から3年間かけ、新潟県佐渡沖など日本海の4海域で、海面から底層水までの酸素濃度、海水温、海流を調べる。国環研の荒巻能史(たかふみ)・地球環境研究センター研究員は「無酸素化のメカニズムを解明し、生態系への影響などの研究につなげたい」と話す。 三重大の谷村篤教授(海洋生態学)によると、底層水の酸欠が進むと酸素を必要とするバクテリアや動物が死に、有機物が分解されないまま堆積(たいせき)する。やがて死骸(しがい)から硫化水素が発生し「死の海」となる。「死の海」の海水が浮上すれば生態系に壊滅的な打撃が予想されるほか、食物連鎖が変化して、多様な魚類の分布への影響も避けられないという。谷村教授は「海中の植物が光合成で吸収する二酸化炭素が急減し、温暖化が加速する恐れもある」と警告する。
PR